近年、東京の舞台芸術マーケットは二極化する傾向にあります。一方には、人気タレントを主要な役に起用し、数千、数万単位の集客を追求する商業主義的なプロダクションがあり、もう一方では少数のコアなファン層に向けた小劇場演劇が一時よりも縮小した規模で展開されています。こうした二極化において、商業主義的なプロダクションは表現の「質」、小劇場は表現の「幅」の面で、それぞれ限界があることは確かです。 この状況下において川村毅は、1980年代に小劇場ブームの先駆けとなった劇団第三エロチカとは別に、プロデュース・カンパニー「T factory」を02年より立ち上げ、「作家中心の舞台作品」を追求してきました。これは商業主義的なプロダクションやサロン化した小劇場から遠く離れて、あらためて作家の世界観を軸に、社会と向き合った作品づくりを追究する試みです。 新作『黒いぬ』では、能楽師の観世栄夫、元文学座の菅野菜保之、元黒テントの新井純、東京乾電池の綾田俊樹、コント55号で一世を風靡した坂上二郎といった5人のベテラン俳優を配役。「シルバー世代による大人のコメディ」に取り組んでいます。 プレ・トークでは、『黒いぬ』作・演出の川村毅が新井純さんをゲストに迎え、新劇の養成所から出発して黒テントの看板女優となった彼女のキャリアをもとに、この数十年の演劇界の変容を振り返りつつ、現況下において『黒いぬ』がもたらすものについて語ります。
川村毅(かわむら・たけし) 1959年生まれ。劇作家・演出家。T factory主宰。京都造形芸術大学助教授。85年『新宿八犬伝 第一巻−犬の誕生−』で岸田戯曲賞受賞。主な作品に『ハムレットクローン』(03)、『フクロウの賭け』(06)など。
新井純(あらい・じゅん) 俳優座付属俳優養成所、劇団自由劇場を経て、黒色テント創立に参加。現在はフリー。白石加代子、李麗仙らとともに60年代演劇を代表する女優として活躍。1975年『阿部定の犬』の演技で第10回紀伊國屋演劇賞を授賞。近年の出演作に『コペンハーゲン』(01)、T factory第一回公演『アーカイブス』(02)など。著書に『風の舞台』。