experiment
京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター上演実験シリーズvol.16
独立行政法人 国際交流基金 企画・制作公演
【南アジア5ヵ国現代演劇コラボレーション作品】
物語の記憶
サマルカンド・カーブル・ヒンドゥスターン
                        
【プロジェクトについて】
 国際交流基金では、90年代初頭より東南アジア現代演劇の紹介に力を注ぎ、その積み重ねの結果として、2年をかけてインドネシア、シンガポール、タイ、中国、日本、マレーシアのアーティストを結集して「リア」を創り上げました。同作品は、1997年の日本初演の後、東南アジア、オーストラリア、ヨーロッパを巡演し、各地で、コラボレーションとは何か、“アジア演劇”とは何かを問いかける重要な議論を巻き起こしたのみならず、その後の東南アジアと日本の演劇交流拡大のきっかけともなりました。私どもでは、「リア」に続く新たなコラボレーションの試みとして、南アジア5ヵ国(インド、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ)に照準をあてます。現存する世界最古の演劇が、インドに継承されるサンスクリット古典劇「クリヤッタム」(世界遺産)であることに象徴されるように、南アジアは世界に誇る演劇の地です。このプロジェクトは、歴史的・文化的に多くのものを共有しながらも、これまで政治的その他の理由で共同作業の機会のなかった南アジアの演劇人が、コラボレーションをとおして南アジアの演劇表現とは何かを追求し、そのことによって南アジアが抱える今日的な問題を普遍的な視点から見つめなおそうとするものです。
 この目的を明確にするために、1人の演出家と複数の国の俳優という通常のコラボレーションの形ではなく、各国から1名ずつ、計5名の演出家を選び、全員が対等な立場にあって且つ個性を失うことなく共同で一つの作品を創造するという、一歩踏み込んだ方法に挑みます。共同作業の前段階として、本年の2月末から3月始めにかけて、東京の国際交流基金フォーラムにおいて、各演出家の小作品の上演、各国第一線の研究者による現代演劇事情のレクチャー、演出家をまじえたトークを実施し、その概要、および今後の共同作業に向けたディスカッションの模様はNHK「芸術劇場」でも紹介され、今後の展開に大きな期待を抱かせました。5人の演出家たちの航海に帆走することで、日本もまたアジアにおける自らの立ち位置を考えるきっかけになることを期待したいと思います。
 作品は、東京と京都で初演された後、インドの首都デリーの古城、プラーナ・キラーで、同国最大の演劇祭、NSD(国立演劇学校)演劇フェスティバルのオープニング作品として上演される予定です。
【作品について】
共同作業には、5ヵ国の演出家と議論を重ねた結果、ムガル帝国を創始したバーブルの大書「バーブル・ナーマ」を素材として用いる予定です。
  バーブル(1483-1530)は、サマルカンド(中央アジア)・ティムール朝の王子として生まれ、1500年に故郷を出奔し、カーブルを征服した後、インド遠征を繰り返し、1526年にムガル朝を開きました。「バーブル・ナーマ」はバーブル自身が記した長大な日記で、文学作品として高く評価されていると同時に、「歴史の舞台で主役を演じた、歴史の当事者自身の手になる貴重なドキュメントであり、15〜16世紀の中央アジア・アフガニスタン・インドに関する情報の宝庫」(間野英二著「バーブル・ナーマの研究」第3巻)と評されています。英語、仏語、ロシア語などに訳出されている他、日本では間野英二・京都大名誉教授(西南アジア史学)による翻訳と詳細な訳注が「バーブル・ナーマの研究」全4巻(松香堂)として出版されており、同名誉教授は、バーブル研究によって2004年度学士院賞を授与しました。
 今回、5人の演出家がこの書を出発点として選んだのは、本書が単なる単なる旅行記や回想記でなく、今日の南アジアが抱える様々な問題--民族紛争、宗教紛争、暴力など--を紐解く鍵がそこにあるとの共通認識からです。従って、本作品は、歴史書としての「バーブル・ナーマ」を素材とするのではなく、演出家たちの視点で読み替え、今日という時代を解明するためのヒントを「バーブル・ナーマ」から得ることになります。スタイルは、各国から選ばれた俳優、ダンサーたちの個性的な身体表現をベースとし、映像と音を多様したマルチメディア作品となる予定です。

【スタッフ・出演者】
― 演出家 ―

■アビラシュ・ピライ Abhilash Pillai
 インド・ケーララ州出身。1969年生まれ。カリカット大学演劇学部から、南アジアにおける現代演劇の殿堂であるデリーのNSD(国立演劇学校)に進み、演出と舞台美術で修士号取得。さらに、ロンドンのRADA (ロイヤル・アカデミー・オブ・ドラマ)で演出と舞台美術を学ぶ。古典から現代までを幅広く取り上げ、独特の様式美に溢れた演出が高い評価を得ている。この数年、インドを代表する若手演出家として注目を集め、「ラーマーヤナ」の一節をサンスクリット古典劇の様式を斬新に取り入れて演出した「サケータム」が国際交流基金アジアセンターの招聘で日本公演(2001年2月)した他、「緑青」がポルトガルのアルマダ国際(2000年7月)、「血の島」がインドの先端的なアートを紹介するベルリンのフェスティバル「ボディー・シティ ミ インドの新たなパースペクティブ」(2003年9月) で上演されている。NSD講師も務める。
 2〜3月の公演では、バージョンアップした「血の島」を上演。スリランカの民族紛争、タリバン統治下のアフガン女性の抑圧、アヨーディヤーのヒンドゥー原理主義問題など、南アジアの現在進行形の紛争を、実写を交えた映像と印象的な音楽の洪水で、迫力ある作品に仕立て上げた。

■アヌープ・バラール Anup Baral
 1968年、ネパールのポカラ生まれ。カトマンドゥのトリブーヴァン大学を卒業(地誌学と歴史専攻)後、インドのNSDに留学し、演技で修士号取得。ネパールに帰国後1990年に、演劇集団「プラティウィンバ (メ鏡モ、 メ肖像モ)」を創立。ポカラとカトマンドゥを拠点に、最近はむしろ演出家として活躍。ネパールの民俗を取り込んだスタイルが多い。主な演出作品に「物語の国」(2003年)、「タンラ」(2002年)、「葬列」(1999年)、「嗚呼」(1997年。ロイヤル・ネパール・アカデミーの全国演劇祭の最優秀演出賞受賞)など。ネパール国立映画養成所の演技部門のチーフも務める。
 2〜3月の公演では、「少女アンマヤ」を上演。シンプルながら、ネパールのマオイスト抗争の犠牲となっていく底辺の人々の苦悩を静かに描き、共感を呼んだ。

■アザッド・アブル・カラム Azad Abul Kalam
 演出家、劇作家、俳優。1968年、バングラデシュのダッカ生まれ。ダッカ大学でマスコミ論とジャーナリズムで修士号取得。1997年に、新しい理念に基づく演劇創造の場として、仲間と共にプラチュヤナート(メ東方の演劇メ)を創立。代表作は、村々を巡るサーカス団がイスラム原理主義者によって崩壊されていく様を描いた「サーカス・サーカス」、ロバート・ボルトの「わが命つきるとも」、バングラデシュの農村に生きる男の精神生活と現代社会との矛盾をついた「コインナ」など。音楽や個性的な身体表現を取り込んだ生気溢れる演出で、オーソドックスな手法の演劇が多数を占めるバングラデシュ演劇界で大いに気を吐く。
 2〜3月の公演では、世界のあらゆる権力を激しく告発し、刺激を与えてきたイタリア人フェミニスト・ジャーナリスト、オリアーナ・ファラーチの問題作「生まれなかった子への手紙」を翻案。バングラデシュではタブーとされる中絶のテーマに挑んだ。

■イブラヒム・クレイシー Ibrahim Quraishi
 パキスタン国籍の演出家、コンセプト・アーティスト、ライター。31歳。男性。ケニアのナイロビに生まれ、チュニジア、パキスタンのカラチ、ユーゴスラビア(現セルビア・モンテネグロ)のベルグラード、モスクワ等で育ち、現在はパリとニューヨークに住み、自身のグループ、コンパニュイ・ファム・ドゥ・シェクル (メ世紀の飢餓団メ)を中心に、多国籍のアーティストたちとのコラボレーションにより、移民、奪取、都市の矛盾、共棲と同化融合のダイナミズムを、ライブ・パフォーマンス、視覚アート、デジタル・メディアを駆使して検証する。最近の作品に、ストリート・オペラ「見捨てられた国」(1999年)、 「リング」(2002年)、「ランドスケープ:夜のシラー」(2003年)など。作品はニューヨーク、パリのみならず、欧州、北米各地のフェスティバルで上演されている。今月は、ニューヨークで坂本龍一とのコラボレーションも予定されている。
 2〜3月の公演「NATURE/paradise」では、今日のイスラム世界の「矛盾に満ちた、そして多くの場合、危険に満ちた『人間の分割』」(クレイシー)を、ビデオ・インスタレーション、カタック・ダンス(足で激しくリズムを踏み鳴らす古典舞踊)、カッワーリー(伝統的なスーフィー歌謡)の呼応によって描き出そうとした。

■ルワンティ・ディ・チケラ Ruwanthie de Chickera
 劇作家、演出家。1975年、スリランカのコロンボ生まれ。コロンボ大学卒業後、マンチェスター大学応用演劇課程に進み、修士号獲得。コロンボ大学在学中の1997年に、脚本「沈黙の間で」でブリティッシュ・カウンシル国際劇作コンペ最優秀南アジア作品賞を受賞し、注目を集める。2002年の「2×2=2 (Two times Two is Two)」が第22回国際学生脚本コンペにおいて世界学生演劇基金賞の最終選抜候補。2001年に、仲間と共に劇団ステージーズを立ち上げ、新しいスリランカ演劇創造をめざす。難民、精神障害者、受刑者、少年犯罪者など、さまざまな人々とのワークショップに力を注ぎ、国立精神医療機関サハナヤの患者・スタッフとの8ヵ月に及ぶワークショップは、「鏡工場」(2003年)として結実している。
 2〜3月の公演では、スリランカで実際に起こった事件から題材を取った、シンハラ演劇の秀作「最終バス」を英語上演。最終バスに乗った貧しい酔っ払いのユーモアと悲哀に満ちた語り口から、多民族社会における人種間のひずみ、貧困、権力構造の恥部が浮き彫りにされた。

■スペース・デザインはインドのアビラシュ・ピライとパキスタンのイブラヒム・クレイシー、映像はインドを代表する映像作家エイン・ラール、音楽はインドの音楽家チャンドランとフランスのジャン・ルイ・ノルスク、衣裳デザインは日本の気鋭、浜井弘治の予定。

― 出演者 ―
■俳優、舞踊家等14名。国籍は、インド4名、スリランカ3名、ネパール2名、パキスタン2名、バングラデシュ3名。

― プロジェクト・アドバイザー ―
■アヌラダ・カプール Anuradha Kapur
インドを代表する演出家。ジェンダー的視点の演出作品が多く、代表作に、女性として生きたグジャラートの伝説的男性俳優ジャイシャンカル・スンダリーの生涯を描いた「スンダリー ミ 俳優は準備する」、「内と外」など。ビデオ・アートとのコラボレーションも多く、インドにおけるマルチメディア的な作品創りの先駆けでもある。海外招聘も多く、最近では、ビデオ・アートとのコラボレーションによる「アンティゴネ・プロジェクト」が、「血の島」と同じく、昨年9月のベルリンでのフェスティバル「ボディー・シティ」で上演され、大好評を博した。日本においても、2000年の文化庁芸術祭(アジア・アートフェスティバル)で、シンガポールのクオ・パオクン「老九」を翻案上演した。デリーのNSDとデリー大学でも教鞭を執り、特にNSDでは、門下に、今回のプロジェクトに参加するアビラシュ・ピライ、アヌープ・バラールをはじめ、多くの優れた若手演出家を輩出している。

■ 内野儀 Uchino Tadashi
東京大学大学院総合文化研究科助教授。専門は日米前衛演劇の比較研究、およびグローバリゼーションと身体の問題。主要著書・論文に「メロドラマの逆襲―<私演劇>の80年代」(1996年、勁草書房)、「メロドラマからパフォーマンスへ―20世紀アメリカ演劇論」(2001年、東京大学出版会)、「野田秀樹とサム・シェパード―グローバリティ・国民国家・演劇」(「ユリイカ」2001年6月臨時増刊号所収)他。幅広い知識と精緻な理論構成で、数々の国際会議で重要な発言者の役割を果たすと共に、近年はアジアにも目を向け、これまで立ち遅れていた日本におけるアジア演劇の学術研究の推進にも力を注ぐ。


日時 2004年12月1日(水)・2日(木)
開場 18:30 開演 19:00
※12月1日公演の終了後、アフタートークあり
会場 京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)
料金
一 般  前売 3,500円 当日 4,000円
学生・ユース(25歳以下)  前売 2,500円 当日 3,000円
 学生証か年齢のわかるものをご提示ください
※未就学児童のご入場はお断りいたします
前売取扱  
京都芸術劇場チケットセンター  075-791-8240
チケットぴあ  0570-02-9999
 0570-02-9966(Pコード356-784
 
主催   京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター

【東京公演】
2004年11月25〜27日
国際交流基金フォーラム
【デリー公演】
2005年01月06日
プラーナ・キラー(デリーの古城)予定。NSD(国立演劇学校)演劇フェスティバル・オープニング作品。
[公演ホームページ]
http://www.jimukyoku.org/south_asia/

[お問い合わせ]
京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター 〒606-8271 京都市左京区北白川瓜生山2−116
Tel.075-791-9437 Fax.075-791-9438 E-mail info@k-pac.org
京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター
     〒606-8271 京都市左京区北白川瓜生山2-116 tel.075-791-8240 fax.075-791-9438 e-mail info@k-pac.org
© Copyright 2001 Kyoto Performing Arts Center allright reserved